▼木造校舎の役割2008/04/07 06:39 (C) 木造校舎大暮山分校 白い紙ひこうき大会
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「懐かしむ」という感情は、この時代を生きる私たちにとって、必要な心の栄養ではないだろうか。
私が代表をつとめる「白い紙ひこうき大会」は、廃校の木造校舎「旧大谷小学校大暮山分校舎」の二階の窓から紙飛行機を飛ばすイベントである。飛距離を競うこともそうだが、夏の日の思い出のワンシーンをみんなで作り出すという、ちょっぴりノスタルジックなイベントだ。
参加層は幅広く、九十四才のおじいちゃんがひ孫を連れてやってきたこともあった。県外からの参加も多く、毎年百五十人程が集まる。子どものイベントと思われがちだが、大人の参加が上回った事が何度もあった。大きな麦わら帽子のボランティアスタッフは毎年増え続け、嬉しい事に昨年は、中学生から六十代まで四十人を超えた。
ところでこの校舎は、これまで有名女優が出演する全国向けのテレビコマーシャルに使われたり、木造校舎の写真集で紹介された。昨年は、人気番組に出演中の、若手タレントの写真集にも使われた。訪れる多くの人々を惹き付けてしまう不思議な魅力を持った校舎なのだ。
大会は、今年の夏で十回を迎える。そして、残念な事だが、これが最終大会となる。
私の町には、廃校した木造校舎が四つ残っている。ここ二十年の間に、新しい校舎とひきかえにほとんどが解体され、小さな分校舍が三つと、三月に閉校したばかりの中規模な校舎が残った。そのうち今年は旧大舟木分校舍が、そして来年には、旧大暮山分校舎の解体が議会で承認されてしまった。傷み具合から安全面に問題ありという。毎年補修願いは出していたが、壊すと決めたものを直すわけにはいかないと,叶えてはもらえなかった。なにしろ、豪雪地の小さなこの町では、財政面から維持できないという。
木造校舎を解体する現場を毎回見続けてきたが、いつもとても悲しい気持ちになる。たくさんの子供時代の優しい思い出が、怪獣のような重機に揺さぶられ、悲鳴を上げながらいとも簡単に崩れ落ちていく。「物を大切に」と学んだ学校が、大切にされずに壊されていくのだ。お世話になったのに、まだ使えそうなのに、見殺しにしてしまったようで、暫くの間、後悔の念にかられてしまう。
けっして、木造校舎を永久に残せとは言わない。体が不自由になったお年寄りでも、そばにいてくれるだけで家族の役割を果たすように、木造校舎も立っているうちはそこに立たせておいて欲しい。それだけで、私たちは優しい時間を懐かしむことができる。優しい人の絆がそこにあったことを思い出せるのだ。無機質な情報化社会の昨今,昭和を装ったものが店頭に並べられ、昭和の映画がヒットしている。現代は「懐かしむ」ことを確かに必要とする時代なのだと思う。
この春、連休のはじまりに「桜さく木造校舎めぐり」という催しを、仲間達と企画している。「桜と木造校舎」の美しい景色を、せめて多くの人の心に焼き付けたい。四つの校舎を回りながら、お菓子やお茶でゆっくりした時間を楽しみたい。この町には、人を呼び込むような大木や古木の桜はないが、懐かしさを感じさせるこの桜と木造校舎の組み合せが人を呼び、新しい観光資源として認められるならば、校舎の寿命を延ばすことに繋がるかも知れない。
校舎の桜が散り急ぐことのないよう、そして校舎を見上げる空が澄んだ青色になる事を心から祈っている。
(河北新報「座標」2008年4月22日掲載 安藤竜二) 写真/宮森友香