▼FRPによる獅子頭の強化と修復について2023/10/26 08:40 (C) 獅子宿燻亭10
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総宮型の獅子の鼻のFRP補強
液状のポリエステル樹脂を布状のガラス繊維に染み込ませ硬化剤で硬化させ強化させるという工法、
いわゆる繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)FRPである。
30年前からその工法で造形物を制作する仕事も経験し、獅子宿の主 八尺大獅子を制作した。
それが獅子頭の制作のきっかけともなった訳だが、獅子頭の補強の施工に繋がった。
それ以前は神社祭礼で使用する獅子頭は「振り獅子」と称し、自宅の守神としての「飾り獅子」
とは区別され江戸時代中期頃より制作されている。古い獅子頭では江戸期安永から天明時代に
かけて長井の高橋小兵衛が数多くの精巧な獅子頭を多数残している。
いずれも木口(年輪の面)鼻先や後頭部等に歯打ちの衝撃による破損が見られる。
白鷹町畔藤熊野神社 小兵衛の作 典型的な歯打ちによる破損
総宮神社の歴代の獅子頭も同様に破損を修理した記録があり、総宮神社から伝播した長井や飯
豊、川西の神社の獅子頭にも同様の破損が有り、修理を重ねてきた歴史がある。
その修理方法と言えば、獅子彫師や塗師が割れやヒビに対して直角にクサビを埋め込む「アリ継」
という技法を施し麻布を貼って漆で補修するという伝統的な方法だった。
修理をしていると獅子の上下の歯に紐を埋め込んで漆で固めたり、丸棒を埋め込んで見たり、
コの字型の電工用の金具を埋め込んだりと工夫の痕が見られるが衝撃には敵わない。
成田の最古の獅子頭の顎の底には大きな鉄板を釘で固定して漆で固めた修理痕も確認している。
いずれも焼け石に水の修理工法で、あの強烈な歯打ちには耐えることは出来ず、隠居獅子になっ
ている。小兵衛の作の平山熊野や畔藤熊野の破損した獅子頭には頬毛部から丸棒を取り付け、真
っ二つになるのを防いでいて、それを行なったのは十日町W氏の考案だと本人から聞いている。
私がFRPによる破損修理を始めたのは、よく憶えていないが約20年前だっただろうか?
その効果を感じて、獅子頭新調の際、最初から木地にFRPを埋め込んでから仕上げる工法を開発
した。主に破損する場所は決まっていて獅子頭の木口からワレが入り、放置していると最悪真っ二
つになる。FRP修理工法だと真っ二つでも修復は可能である。
数年前、総宮神社の昭和三年竹田吉四郎の作の獅子が顎が破断し修理を依頼され、FRPによ
る修理工法で修復し現在も使用されている。 隠居獅子にとご提案したが受け入れられない様だ。
吉四郎獅子にはカリスマ的な魅力がある。
この様に古い獅子頭もこのFRPによる修理工法をもって行えば再生も可能と実証してくれている。
いつまで耐え得るか静観しているが、三つに破断する以前に、ヒビが入り前兆があるはずである。
FRPに用いられるガラス繊維にはいろんな種類が有り、細かいガラス繊維のチップを押し固
めた「ガラスマット」長いガラス繊維を平織した「ガラスクロス」など様々あり、レーシングカー
の車体に用いられる鉄より軽く丈夫なカーボン繊維などもある。カーボン繊維は十日町白山神社の
獅子頭の歯の補強にカーボン繊維のマットを重ねて使用している。
獅子頭に用いられるのは「ガラスマット」で、曲面には切れ目を入れるなどして用いるが、角になる
部分は必ず浮いて密着せず空気が入り、強度が落ちるので貼り方にコツが必要だ。木地とポリエステ
ル樹脂の密着もノウハウがあり、木地に吸い込む専用のシーラー塗料を塗布し含浸させ密着させる。
補強部分以外の木地はなるべく漆の木固めに残す様に心掛けている。FRPの修理による加重もデータ
を取り始めたばかりだが、数日前に施工した獅子頭のFRPだけ加重は300gだった。漆の仕上げ加重と
同様の数字は意外に軽い印象だった。これに金箔は1g程度、タテガミ250gと想定する事ができ木地の
重さに1kg加えると完成時の重さになるだろう。こうして軽くて丈夫で機動性に富んだ獅子頭が出来上
がるが、軽い獅子頭は獅子舞にどういう影響を与えるだろうか。
経験上、軽い獅子頭を好まない獅子振りもいる様だ。
今年、9月勧進代総宮神社の森助獅子を仕上げた際、獅子頭の重さは不明(計量した事が無い)で、
かなり重くその重さが盛助獅子たるいわれで大事なのだという話を聞いた。
獅子舞は本来修験の修行、山に入り霊力を受け心身を鍛えることを目的とし、山に行く代わりに重い獅子
頭で獅子舞をすることが修行となる。苦しくなければ修行にならないという事であり、人によって獅子の
重さも変わって感じるだろうし、稽古の長さや、やり方の程度で重さの感じ方も変わってくる。稽古によ
って修行となし、祭りの花形となって地域や人々を払い清める。
そこには獅子頭の重さの問題など存在しないだろう。
FRPによる獅子頭の修復工法については発展途上で、これからもまだまだ改良すべき問題がある。
今まで施工した獅子頭の耐久性や経年劣化などの結果はこれから現れてくるのだ。