▼『卒展2006』 をめぐって vol,12006/06/06 09:57 (C) 美術館大学構想
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■写真:『Eden』1999年/宮本武典(武蔵野美術大学大学院修了制作)
液晶プロジェクター映像、曲げ木椅子、髪の毛、ガラス etc.
武蔵野美術大学美術資料図書館写真スタジオでのインスタレーション風景
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卒業修了制作展のコーディネートを、美術館大学構想室が担当することになりました。そして今、芸工大ではこの「卒展」のあり方について議論が巻き起こっています。
これまで東北芸術工科大学では、卒展会場をキャンパス内だけでなく、山形美術館(日本画/洋画/工芸/彫刻/写真の展示)や、市内の映画館『ミューズ』(映像)に分散させて開催してきました。それを、今年度からキャンパス会場で一本化するという改革を、松本学長が提案されたのです。
大学内のギャラリーや劇場を活用するだけでなく、学内の一部のアトリエやラボも展示空間にリノベーションして、「制作の現場」を「公開・交流の場」に改造していく。それは、借り物の「箱」に収めるのではなく、制作現場の熱気を感じながら、その成果を来場者に見ていただこうというものです。
もちろん、提案の背景には、定員増による従来の卒展展示スペースの不足や、会場の分散化による鑑賞導線の困難さなど、様々な現実的な要因があるのですが、一番大きなコンセプトは、卒展を東北から発信するアートとデザインの「展覧会」として、メッセージ性のある、魅力あるものにしたいという思いです。
昨年夏、松本哲男学長はベネチア・ビエンナーレの視察に出られました。
ベネチアでは「アルセナーレ」と呼ばれる赤煉瓦の造船所群が展示会場として利用されていました。過ぎ去った大航海時代の記憶を留める古びた空間に、新しいアートが、新しい世界からのメッセージを運んできていました。
僕も同行しましたが、公園内に林立する各国のパピリオンを、炎天下をものともせず、誰よりも熱心に見て回っていたのが松本学長でしたね。(ただし、ビール片手に)海の上に浮かぶ小さな都市・ベニスに、点在するアート・パピリオンを巡りあるく行為は、あたかも世界とリンクする自らの「声」を聞いて回る、内省の旅のように感じられたものでした。
山形の僕は、「新しい卒展」担当者の一人として、様々な立場の、様々な視点からのヒヤリングに奔走している毎日を送っていますが、松本哲男学長をはじめ、執行部の先生方の、新しい卒展創造にかける意欲は、確実に大学を活性化していると感じています。サポートする僕たち大学スタッフは「卒展とは何か? 」の根本を問う一連の試行錯誤の果てを、クオリティーの高い展覧会として結晶させねばなりません。
今年もオフィスで迎える朝が多くなりそうです。
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上の写真は宮本自身の懐かしの作品『Eden』の会場風景です。
大学院の修了制作として発表したこのインスタレーションも、キャンパス内のデットスペースを活用した展示でした。
民族研究室でアルバイトしていた僕は、民具の倉庫として使われていた美術資料図書館内の写真スタジオを作業中に偶然「発見」し、現状復帰とスタジオ内の整理清掃を条件に、展示空間として使わせてもらったのでした。ほとんどの学生たちが足を踏み入れたことのない、大昔のスタジオ器材の墓場のようなこの部屋は、見方によってはハードなコンクリート壁と完全暗転が、映像のプレゼンテーションには最適でした。
友人たちに手伝ってもらいながら、1週間かけて山のような民具を移動し、十数年分の分厚い埃を拭き清め、重たい撮影機材を整理しました。それから油絵学科のモチーフ室に交渉して、モデルポーズ用にコレクションされていたヨーロッパ製の古い曲げ木椅子を大量に運び込み、仮設の劇場をスタジオ内に組み上げました。照明機材はスタジオのものをそのまま流用し、ダンサーやミュージシャン、映像作家に協力してもらってパフォーマンスを映像と組み合わせたインスタレーションとしました。
展示施設として「発見/発掘」された地下墳墓のようなこの「忘れられたスタジオ」は、今では後輩たちの重要な展示会場として卒展やその他の企画展会場に運用されているようです。
美術館大学構想室/宮本武典