ヤマガタンver9 > 西雅秋・彫刻風土の旅〈2〉ー『あとりえマサト』を訪ねてー

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▼西雅秋・彫刻風土の旅〈2〉ー『あとりえマサト』を訪ねてー

西雅秋・彫刻風土の旅〈2〉ー『あとりえマサト』を訪ねてー/
■写真上:旧立木小学校の図工室の棚から古い土人形を収集する西さん。
■写真中:西さんを囲んでの懇親会の様子。グラスには朝日町特産のワイン、テーブルの灯りは同じくこの地名産の蜜蝋燭。
■写真下:『あとりえマサト』代表の板垣さんは、本学日本画コースの出身で、学生時代から廃校でのワークショップに主体的に関わってきた。

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過疎と少子化のあおりを受け、惜しまれつつ10年前に廃校となった山形県朝日町の立木小学校に、芸工大の卒業生が中心となって運営されている共同スタジオ『あとりえマサト』があります。
東北芸術工科大学では、今年度から文部科学省の支援を受けて『芸術工房村構想』というプロジェクトを立ち上げました。これは、山形県内の廃校におけるアート制作や舞踏公演、ワークショップなどの活動を支援し、卒業後も山形に残り、廃校を舞台に風土と深く繋がりながら自らのアートを追求する『あとりえマサト』のような若者たちと一緒に、地域振興に取り組んでいこうというものです。
美術館大学構想室でも、自身の制作とともに、教室を改造したギャラリーを運営している彼らに提供する展示企画として、『西雅秋ー彫刻風土ー』展の巡回開催を提案し、先週、出品作家である西さんとともに、会場の下見に出かけました。

山形市内から寒河江方面に車を走らせ、緑濃い山並みと、集落をいくつも越え、くねくねした山道を進むこと1時間。清流をたたえた谷間の里に、モダンな木造校舎がつくねんと佇んでいました。
子どもたちの学びの痕跡を、そのがっしりした木肌のあちこち生々しく残す校舎の中を、『あとりえマサト』の板垣さん、田中さん、川勝さん、三浦さんの解説付きでじっくりと見学した西さんは、図工室の棚に残されていた山形の郷土玩具に注目。いくつかを、水上能舞台で発表する作品『彫刻風土』に立木小学校の「記憶のカタチ」を加えるべく収集しました。

日が暮れてからは、かつてこどもたちが裸足で駆け回った廊下に座布団を敷いて、ささやかな交流の酒宴がはじまります。30年前から飯能の山野を自力で拓き、家族を養いながら彫刻を作り続けてきた先輩の言葉は、冬は雪に閉ざされる山間で表現に生きることを決意した『あとりえマサト』の若いアーティストに、深く強く響いていたようです。皆とても穏やかな表情、良き語りの夜でした。
この企画は、西さんの人柄によって、当初の予想をはるかに越えて、人と土地の記憶を巻き込み、ひろがっています。

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帰り際、夜の校庭に出てみると、村の夜はもう秋の涼しさです。
空には星が恐いくらいキリリと輝き、生まれてはじめて見る天の川が、本当に「乳の河」のように、ぼんやりとたなびいていました。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典
2006/09/06 21:28 (C) 美術館大学構想
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