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▼彫刻風土にたなびく声-吉増剛造氏をお迎えして-

彫刻風土にたなびく声-吉増剛造氏をお迎えして-/
■写真上:シンポジウム『神秘の樹と明日の鳥たち』の打ち上げ風景。会場はかつて芸工大がリノベーションを手がけた「蔵 オビハチ」。左から西雅秋氏、赤坂憲雄教授、酒井忠康氏(後ろ姿)、松本哲男学長、詩人の吉増剛造氏
■写真下:蔵の夜は舞踏家の森繁哉教授、『BT美術手帖』等で活躍されているライター白坂ゆりさん、彫刻家の古郡弘さんを交えて更けていった。
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10月28日土曜日の夕刻、『西雅秋-彫刻風土-』展とのタイアップ企画として、美術館大学構想室主催のシンポジウム第2回『神秘の樹と明日の鳥たち-詩・旅・思索-』が「こども劇場」で開催されました。
この企画は、毎回、各界の知の先達をお迎えし、座長の酒井忠康世田谷美術館長の司会のもと、ジャンルに限定されない即興的かつ横断的な「語り」によって、東北の風土のもつ豊かな文化的土壌を描写していこうとするものです。

昨年のシンポジウム『ことばの柱をたてる』にお招きした建築(史)家の藤森照信先生は、ベネチア・ビエンナーレ建築展2006日本館のコミッショナーとして活躍され、ますますお忙しそうです。(さきに『HOME』誌別冊として出版された『ザ・藤森照信』には、酒井先生がエッセイ『藤森照信氏の横顔』を寄稿され、文中「去年の秋、東北芸術工科大学で芳賀徹氏をまじえて諤々のシンポジウム〜」との記載がありました)また芳賀徹先生(京都造形芸術大学学長)は、お会いするたび「君、あの時の鼎談は楽しかったね、またやろうよ」と声をかけてくださいます。
3者の語りは、粋、というか軽みがあって、それでいて骨太な、研究室に籠っているだけでは得ることのできない、様々な土地の雨風にまみれ、靴に埃を積もらせて歩き続けた人の「大地の知恵」を感じさせるものでした。
そのユーモア溢れる知的な丁々発止は、本HP内アーカイブ『ことばの柱をたてる』の項でPDFファイルにて閲覧できます。

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そして今年『神秘の樹と明日の鳥たち』のゲストとして、詩人の吉増剛造先生に本学にお越しいただきました。学内からは民俗学者の赤坂憲雄教授、座長は昨年に引き続き酒井先生です。
私事ですが、僕はかつて吉増先生が武蔵野美術大学の研究誌「季刊・武蔵野美術」(本学図書館に蔵書有)の巻頭グラビアにおいて、彫刻家の故・若林奮氏と共同執筆されていたテクスト『緑の森の一角獣座』に、はじめて芸術のなかの言葉を見いだした美大生でありました。以来、その詩のみならず、吉増先生が漂白の旅の中で記された銅板や写真(今回も鼎談の最中にカメラを何度も手に取られていました)にも、多大な影響を受け続けています。
吉増先生はポエトリー・リーディングの活動でも知られていますが、これまでなかなか参加する機会に恵まれず、いつもテレビモニターの中で写真家のアラーキーや、ジョナス・メカスなど、21世紀の眼の巨人たちと共にニューヨークや東京の路地を彷徨う、その筆跡に似た細身のお姿だけを拝見していました。
何年か前、東京国立近代美術館「ブラジル・ボディ・ノスタルジア」展での吉増先生の特別講演も、この時釧路から上京して同行していた友人の飛行機の時間と折り合いが合わず聞き逃したのです。
それだけに、今回の企画準備の過程で、初めて吉増先生から手書きのFAXをいただいたとき、あの独特の筆致で書かれた「宮本様」との宛名を見ただけで手が震え(ミーハーですみません)ました。吉増先生が「つばさ号」で山形駅に降り立たれた時には、出迎えの際の目印にと前もって伝えられていた「クタッとした茶色のジャケット」を追うまでもなく、改札をくぐってこられる吉増先生の姿を遠くから確認できたのでした。
茶色のジャケットの内ポケットには、細身のカラーペンが十数本、ぎっちりと並んでいて、これが「クタッと」の正体。吉増先生は、これらのペンを用い、山形新幹線の車中で、シンポジウムのために精緻な細い文字の連なりから成る「新聞」をお書きいただき、この日、集まった人々への手土産として手渡され、シンポジウムの中で詠み上げられたのでした!

前回のシンポジウムのテーマは『美術館大学』の「柱」を豪快に「ぶちあげる(酒井先生談)」こと。今回のテーマは「樹」ですから、地中深く、また天高く、大気や大地の滋味を吸い上げる、実にゆったりとした、心地よい「語り」の場になりました。とても洗練された読書会に招かれたような120分のシンポジウムが活字になるのは、来春の予定。行間からこぼれ落ちるはずの、詩的エッセンスにご期待ください。
宮本武典/美術館大学構想室学芸員
2006/11/08 14:35 (C) 美術館大学構想
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